Magazine

2025.02.06

【イベントレポート】2023年度採択者による事業化ピッチを開催しました

DEMODAY2024イベントレポート

「ものづくりムーブメント2024」は、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターが実施する、製造業の活性化を後押しするプログラムです。主に、ものづくりベンチャーに対し、アイデアを具現化する造形支援を中心とした試作支援を行っています。

プログラムへの応募総数は50者、 2024年3月に開催されたコンテストで8社の企業が採択され、8ヶ月後の11月、その事業の進捗と製品化間近の試作品について、ピッチ形式の発表が行われました。そのイベントの模様をお伝えします。

DEMODAY2024 当日の様子

開催挨拶・コメンテーター紹介

開会に先立ち、主催の地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター 企画部 プロジェクト企画室長・玉置賢次氏から、挨拶がありました。
「日本にとって大切な、ものづくり中小企業を増やしたいと考えています。ブラッシュアップされた発表を楽しみにしています。」

投資家目線でのコメンテーターとして、Gazelle Capitalシニアキャピタリスト・大谷直之氏、株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO・田所雅之氏、日本政策金融公庫 国民生活事業本部 創業支援部部長​・森本淳志氏の3名が参加しました。

それでは、全8社のピッチ発表およびコメンテーターとの質疑についてお伝えします。

1. 株式会社RapidX

株式会社RapidX

1社目は、株式会社RapidXの代表取締役CEO・正留世成氏です。同社が開発しているのは、「AI火災予兆検知システム」です。

AI火災予兆検知システム

現在、建築現場では、火災を未然に検知するソリューションがなく、その方法は主に人的な見回りに頼っているという状況です。そこで火災を未然に防ぐため、「くすぶり」を検知するセンサーを開発しました。

熱煙だけでなく、一酸化炭素、二酸化炭素濃度なども計測し、従来よりも早く火災を検知することができます。センサーはアプリと連携し、遠隔で監視することが可能です。課金モデルは、センサーとアプリの月額利用料です。またオプションで、センサーをドローンやロボットに搭載し、自動で見回りをさせるサービスも開発中です。

建設会社に直接提供するほか、損害保険会社の付帯サービスとして提供することも検討しています。大手・中堅ゼネコン向けにシェア100%を目指し、工場や倉庫、ゆくゆくは一般住宅向けにも広げていきたいと正留氏は語ります。

田所氏から「損保会社にはどのくらい利益があるのか?」との質問があり、「建設工事保険の市場規模は600年億円ほどあると言われていて、損保会社としての保険金額を抑えることができる」と正留氏は回答しました。

森本氏からの「すでに導入実績があるのか?」との質問には、「実際に実証実験をさせていただいている例がある」と回答しました。

2. 株式会社sci-bone

株式会社sci-bone

2社目は、株式会社sci-boneの代表取締役・宮澤留以氏です。部活の指導者不足を補う、ウェアラブルコーチ「Dr.MOTION(ドクターモーション)」を開発しています。

Dr.MOTION

運動部の指導者として、専門家的な知識のあるコーチや監督が不足している現在、選手の練習ステータスや疲労度などが分からず、成長阻害やケガのリスクが高まっています。このデバイスは選手にセンサーを1つつけることで、全身の動作指標を推定AIにより、アプリのダッシュボードで各人の状況をリアルタイムに把握することが可能になります。これにより、専門家でなくても選手の状態を把握できるようになり、交代のタイミングなどを図ることができるため、ケガのリスクが減少します。

「まずバスケットボールやフットサルなどチームスポーツの強豪校に利用いただき、裾野を広げていく計画です。日本のスポーツ上達市場800億円の中でシェアをとっていき、さらに世界を目指します」と、宮澤氏は展望を話しました。

森本氏から「月額1人1,980円ということだが、学校で賄うのは難しい価格では?」という質問があり、「特にケガのリスク軽減への定性的な評価は高いと認識しているが、ゴルフやテニスといった学校以外の上達市場も視野に入れたい」と宮澤氏は返答しました。

3. マッスルブループリンツ株式会社

マッスルブループリンツ株式会社

3社目は、マッスルブループリンツ株式会社の代表取締役・衣笠竜太氏です。筋肉生理学に基づくウェアラブルデバイス「筋肉Phone」を開発しています。

筋肉Phone

筋トレ市場は年々拡大しており、厚労省からは、週に2〜3日の筋トレを推奨するガイドラインも出ています。

そんな筋トレの課題は、6割以上の人が効果を実感できていないことです。そこで、筋電センサーとアプリを組み合わせて商品を開発しました。低コストにもかかわらず筋肉からの信号を検出する精度が高く、信号を解析するアルゴリズムを搭載していることが特長です。使い方も簡単で、装着は10秒、アプリ操作を含めて20秒ほどで計測を始めることができます。目標値を設定して、リアルタイムにトレーニングを判定することもできます。また、このセンサーの使用により、普段の40倍の力を入れることができたという実験結果も出ています。このデバイスなら、安価で、かつ簡単に、誰でも筋トレの質を高めることができます。

衣笠氏は「リハビリにも応用でき、麻痺のある患者さんにも効果が期待できます。市場としては、リハビリ、メタボ健診、生命保険といったところを考えています」と語ります。

田所氏から「医療系とパーソナルトレーニングの二軸で考えて、二股戦略にした方がよいのではないか。結果に濃淡が出てきたとき、どちらかだけ撤退することも可能になるので」というアドバイスがありました。

4. 株式会社インターホールディングス

株式会社インターホールディングス

4社目は、株式会社インターホールディングスの代表取締役CEO・成井五久実氏です。製品は、「サスティナブルな社会を実現する真空製品」です。

サスティナブルな社会を実現する真空製品

同社は、ハジー技研株式会社の萩原忠氏の特許技術を使った真空容器を提供し、すでに食品パッケージにおいて展開をしています。この製品は酸化を防ぐことができ、牛乳や白ワインなら1ヶ月、新米は6ヶ月間風味を保つことが可能です。

今回、この技術を美容業界に応用することにしました。コスメは「最後まで使いきれない」という声が多く、使いきれずに捨てた経験がある人は86%を超えています。さらに美容メーカートップ5社だけで、年2トンの廃棄が発生しているという現状があります。
これを解決するため、チューブ型の真空容器を開発しました。逆止弁を、同社の「エアレスキャップ」という中栓にするだけという仕様です。

すでに量産体制を整えつつあり、海外展開も本格スタートし、アメリカ、韓国の会社とライセンス商談を開始しています。今後は、ニーズが見込めるオーガニックコスメ市場において、この製品を流通させようと目論んでいます。アメリカでは3兆円の規模がある市場です。

「テクノロジーの力で、世界のロスをゼロに」をスローガンに、事業を進めていきたいと成井氏は語ります。

田所氏から「チューブ1個10円の追加だと利幅が少ない。コスメブランド自体を作ることは考えないのか?」との質問に、「容器自体は自社でも作っているが、OEMと両軸で考えたい」と成井氏は回答しました。

5. 中西健太氏

中西健太氏

5番目の発表は、リハビリ科医師の中西健太氏による、脳卒中による麻痺患者のための靴「ReOrtho(リオルト)」です。

ReOrtho

脳卒中は片側半身に麻痺が残る病気で、そうなると片手で靴を履くのがとても困難となります。また、脳卒中患者用の靴はデザインの種類が少なく、好みやTPOで選べないため、外出しづらくなるなど心理的な影響が見受けられます。靴が履きづらいことにより、外出意欲の低下から社会参加の減少、身体機能の低下といった影響が懸念されます。

「ReOrtho(リオルト)」は、足を差し入れる必要がなく着脱動作が簡単な、磁石を使った靴です。アッパー(靴の上面)は好みやTPOに合わせて、カスタムでデザインを変更することができます。今後は、さまざまなブランドやデザイナーとのコラボをするような展開を想定しています。

脳卒中患者用の靴市場は約200億円の規模で、そのうちの20%のシェアを目指します。

田所氏からの「デザインの自由度は、どの程度のニーズがあるのか」という質問に、中西氏が「感覚的には40〜60代の若年発症の患者で需要が大きいと感じる」と回答すると、「アンケートを取ったり、クラウドファンディングで実際に作ったりしてみるなどして、使用者の満足度を測ってみては」というアドバイスがありました。

6. フローフルワークス株式会社

フローフルワークス株式会社

6社目は、フローフルワークス株式会社の代表取締役・星野創一郎氏です。没入体験によるWell-being(ウェルビーイング)を目指す釣具メーカーです。

NOYD

同社は、世界一釣れるルアー「NOYD(ノイド)」を開発しています。これは、餌釣りとルアー釣りのハイブリッド、餌とルアーを組み合わせた製品です。

このルアーのヘッドの部分は通常の鉛からビスマス鉱に変え、骨部分は生分解性プラスチック製、テールの餌部分のゲルワームは96%が水です。海と魚に優しい成分でできています。また、釣り人ファーストを叶えるため、簡単に装着できてずれない仕様にしてあり、従来品の1/3の速さで取り付けが可能です。SNSでは、この製品を取り付ける動画が55万回以上再生されました。

世界のマーケットは2031年までに660億円までに成長し、日本では210万人ほどがターゲットになります。すでに海外は20カ国から問い合わせがきています。
値段は、ルアー1,700円、エサ800円で計2,500円としています。販売目標は26万個で、まずはマーケットの1%のシェアを目指します。すでに1万個を初年度の目標としています。

大谷氏から「ゆくゆくはスノーピークのように体験全体、場所やモノも提供しては?」という提案に、星野氏は「現在のところ、メディア運用と釣り場の構築も考えているところ」と回答しました。

田所氏は「ルアーが安くて、消耗品のエサが高いという値付けも検証してみては」と提案しました。

7. 株式会社Dental Prediction

株式会社Dental Prediction

7社目は、株式会社Dental Predictionの代表取締役・宇野澤元春氏です。「DenPre 3D Clinical」という歯科の術前シミュレーション、ナビゲーションサポートシステムを開発しています。

DenPre 3D Clinical

日本の歯科では、医師のトレーニングの場は勤務先のクリニック(臨床現場)であることが87%です。旧態依然として機材も古いまま、いまだに「勘と経験と度胸」の世界であり、医療事故が絶えません。

同社のシステムでは、術前にXR・3D模型シミュレーショントレーニング、術中にマッピングトラッキング(手術中のサポート)が可能になります。CTから患者固有の3Dデータ作成(特許取得済み)することができ、模型とXRを組み合わせて、マッピングトラッキングができたり、アプリで術中のサポートデータを作成できたりといったことを行うことができます。
治療前と治療中に存在する医療のギャップを埋めて、誰でも安心安全な医療の構築を実現します。

大谷氏から「医師の勘や経験をどう可視化するのか?」との質問があり、「実際の数値を合わせられるので、ガイドしてもらいながら手術ができる」と宇野澤氏は回答しました。

森本氏から「どのように患者に請求するのか?」という質問には、「インプラント、矯正領域の保険会社と提携していて、患者さんに請求することができる」と回答しました。

8. wavelogy株式会社

wavelogy株式会社

8社目はwavelogy株式会社の代表取締役・道上竣介氏です。東京工業大学の音解析のプロフェッショナルを目指すベンチャー企業で、AI漏水判断システム「SuiDo」を開発しています。この技術は、すでに特許を取得済みです。

SuiDo

水道は、近年老朽化に伴い、漏水により年1,800億円以上(日本の水道全体の約10%)の損失を出しているといわれます。そのため漏水調査が行われますが、調査の工程の約8割を占める音調調査は人海戦術で、人材不足、技術のブラックボックス化、実地調査のコスパの悪さが問題となっています。

「SuiDo」は、漏水音の録音デバイス、録音したデータの管理、クラウドでのAI解析により、専門の技術士でなくても誰でも調査と解析ができるようになるサービスです。

漏水調査は、費用が数百万円からと地方ではコスパが悪い状態です。このサービスでは、年間36万円から契約することができます。国内約1,500自治体のうち5年で300の自治体、年間1.2億円の売り上げを見込んでいます。漏水の0.5%、つまり年間270億円の漏水損失の低減を目指しています。

田所氏から「自治体の仕事なので、まずはロビー活動ではないか」との指摘があり、「国交省の公募条件を見直す必要があり、アップデートを働きかけたい」と道上氏は回答しました。

総評・交流会

全てのピッチを終え、最後にコメンテーターの皆さんからの総評がありました。

DEMODAY2024 総評

大谷氏「バーティカルな領域をよくみているが、市場間で言うとIPO価格は高くない。風向きはあまりよくないが、こういった領域は日本の産業を支える根幹になっていると思うので、今後もディスカッションしていきたい。」

田所氏「ものづくりは初期費用がかかりがち。ニッチで熱量があるのは大事だけれど、やはりマーケットフィットしなければ拡大が難しくなる。スタートアップで大事なのは撤退基準を持っていること。できれば二股戦略をして、絶対評価でなく相対評価を。足元をやりながら、どう勝ち切るのかという視点の切り替えも大事だと思う。」

森本氏「未来は誰にも分からない。どれが当たるか分からない。チャレンジに価値がある。運やタイミングなど成功には型はないが、失敗には型がある。失敗は確実に防いで、未来を作りましょう。」

発表の後には、参加者との交流会が行われました。発表者がブースに並び、参加者と積極的に意見を交換しました。参加者は投資家、マスコミ関係者、PR担当者など、事業への関心が高く、積極的な質問やアイデアの交換が行われました。

DEMODAY2024 交流会の様子1
DEMODAY2024 交流会の様子2
DEMODAY2024 交流会の様子3
DEMODAY2024 交流会の様子4
Contest2025
Result