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2024.01.24

【イベントレポート】2022年度採択者による事業化ピッチを開催しました

「ものづくりムーブメント2023」は、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターが実施する、製造業の活性化を後押しするプログラムです。主に、ものづくりベンチャーに対し、アイデアを具現化する造形支援を中心とした試作支援を行なっています。

プログラムへの応募総数は52社、今年3月に開催された最終審査を兼ねたコンテストで8社の個人企業が採択されました。8ヶ月後の11月、その事業の進捗と製品化間近の試作品について、ピッチ形式の発表が行われました。そのイベントの模様をお伝えします。

開会挨拶・コメンテーター紹介

開会前には、主催である地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター企画部、プロジェクト企画室長・玉置賢次氏から挨拶がありました。

その後、投資家目線でのコメンテーターとして、「IDATEN Ventures」代表パートナー・足立健太氏、「Global Brain株式会社」ゼネラルパートナー・木塚健太氏、「HERO Impact Capital」ファウンダー&ゼネラルパートナー・渡邊拓氏の3名のご紹介がありました。

参加企業のピッチ発表およびコメンテーターとの質疑についてお伝えします。

1. 株式会社ブライトヴォックス

1社目は、株式会社ブライトヴォックスの代表取締役CEO・灰谷公良さんです。

同社のコンセプトは「デジタルコミュニケーションで笑顔の輪を作る」。円柱状の柱形をした3次元ディスプレイの開発をしています。製品名は「brightvox 3D」です。

思い描いている世界観は、SF映画のような世界観。3Dコンテンツを現実空間に演出することで、アート・エンタメ領域での映像体験をアップデートしたり、実用的な価値として、製造や医療、もしくは教育の分野で、技術を高度化するためのディスプレイとしての活用を考えています。

デジタルアートを3D展示する表現手法として活用したり、世界の文化財を3Dスキャンしたものを現実空間に復元するといった使い方ができます。このディスプレイを使うことで、今まで世界に全くなかったものができる可能性があるのです。

体験価値を作ることから事業参入し、最終的には、新しいエンターテインメントや、実用的な情報コミュニケーションを実現したいと考えています。

質疑応答では、「コンテンツディベロッパーをどう集めるのか?」という問いに対し、「立体コンテンツのフォーマットは世界中にあり裾野は広いが、まだ導線が少ないのが課題。事例作りをしてパートナーを広げたい」との回答がありました。

2. VITRO

2社目は、VITROの高橋良爾さん。製品は、置くだけで日本庭園、線香花火のような照明「DEW」です。

VITROは「試験管」という意味で、実験的なプロダクトを作り、作り手も使う人もワクワクするような生活風景を作っていきたいという思いがあります。

「DEW」が目指しているのは、心安らかな人間社会の実現。今、テクノロジーストレスが増大していて、マインドフルネス市場や健康経営市場が拡大しています。その時に思いついたのが「家におけるポータブルな自然を作る」ということ。現代の“ししおどし”的なものとして、水滴と光を合わせて心穏やかな時間を作るような照明を作りました。

設置場所としては、ベッドサイド、瞑想空間といったところを想定。今後はホテルなどに交渉しつつセレクトショップにも置かせてもらいたいと考えています。

現在、パナソニックの協力のもと量産設計中となっており、来年度から販売を予定しています。 コメンテーターからは「ホテルなどに置くだけでなく、デリバリー瞑想サービスとして提供するとか、SNSでも接点を広げては」という意見や、「大量生産できる体制はどうつくるのか?」という質問があり、質問には「今のところ大阪の町工場を6社束ねている企業とのパイプがある」との回答がありました。

3. 株式会社Ubitone

3社目は、株式会社Ubitone 代表取締役・山蔦栄太郎さん。製品は、「Ubitoneグラブ」。盲ろう者が使う、手指携行型コミュニケーション生活支援デバイスです。

盲ろう者は、通訳なしでの会話が難しく、重い点字デバイスを通してしかインターネットにもつながれず、介助者のサポートなしには街中を歩くこともできません。「Ubitoneグラブ」は手に装着することで、自由にスマートフォンを使えるようになる、全く新しいコミュニケーション生活支援デバイスです。

スマートフォンとつながることで、対話やチャットはもちろん、その機能をフルに活用することができ、歩行サポートやドアベルなどの周辺機器とつながることで生活をサポート、信号などと連携ができれば、街を一人で歩ける可能性も広がります。

既に特許も取得済み。サービスが実現すれば、盲ろう者のコミュニケーション情報取得が自由になるだけではなく、社会全体のバリアフリーが実現可能です。

4. Yolni株式会社

4社目は、Yolni株式会社 代表取締役・奥出えりかさん。夜道の不安に寄り添うスマート防犯アクセサリー「yolni」を開発しています。同社は、「夜道は不安だな」という思いから、このプロジェクトを始めました。

この製品には、具体的には3つの機能があります。

1つ目は歩行の見守り。デバイスの中に加速度センサーが入っており、ユーザーの歩行を分析します。2つ目は、真ん中のボタンです。これを押すと、自分のスマートフォンから着信音を鳴らすことができます。3つ目は、下のピンを引き抜くと、ブザー音を鳴らした上、あらかじめ登録したLINEグループに位置情報を送ることができます。

プロトタイプでユーザーテストをした結果、「防犯意識や行動に変化があった」「安心できた」といった声をもらうことができ、想定していた効果を得ることができました。

現在、クラウドファンディングの準備中で、その後は直販などをしながら、いつかは海外展開もできたらと考えています。

コメンテーターからは、「前回からかなり進んだ。これからはどうやって広げていくのかが課題だと思うが、デファクトのためのチャネルハックをどこに広げたらいいか、フィールドワークの中で使ったポイントはあるか?」との質問があり、「ユーザーを広げるには学校、特に大学と考えている。技術面などに関しては、通信会社などと連携できたら嬉しい」との回答がありました。

5. 株式会社コネクト

5社目は、株式会社コネクトの代表取締役・本山敏文さん。製品は「塩分濃度測定機器 エンシル」です。

高血圧は日本の国民病とも呼ばれ、その人口は4300万人、全人口の3分の1にあたります。高血圧と診断されると、医師から「1日の塩分摂取量の目安を6g以下にしてください」という生活指導を受けます。しかし、塩分測定器を使って塩分測定と記録をするのは、煩雑で面倒な作業です。

「エンシル」では、デバイスを携帯端末に接続し、測定したい食事にセンサーを入れると、数秒で塩分濃度(%)が測定でき、アプリケーションで食べたメニューの登録、塩分測定、グラム(g)換算ができます。データの記録や振り返りが簡単にでき、データから生活習慣を見返すことが可能です。

まずは、治療を要する重症な高血圧患者をターゲットにマーケティングをしていき、最終的には、一家に1台、体温計と同じようなデバイスにしたいと考えています。

コメンテーターからは、「やはり使用手順の煩雑さが否めないように感じる。プロトタイプの前の段階でも、ユーザー検証をして利用者の声を聞いた方が良いのでは」とのアドバイスがありました。

6. ALTERPLANTZ

6社目は、ALTERPLANTZの竹田徹さん。製品は、デザイン性と機能性を両立させ、自由にカスタマイズを楽しめる園芸用品「alternative plant pot」です。

竹田さんは、趣味として主にビザールプランツと呼ばれる特殊な乾燥地帯の植物を育てています。その中で、植木鉢が課題だと感じてきたそう。かっこいい陶器鉢は見た目が良くても機能性が悪く、プラスチックの鉢はインテリア性があまり良くないものが多い。どうにか良い面を兼ね備えた製品を作りたいと思い、自ら金型から製作したのがこの製品です。

希少植物に特化した植木鉢を、金型から製作しているメーカーは今のところ他にはあまりありません。今後は、より生活に溶け込む園芸スタイルが発展すると予想しており、コアのムーブメントから一般に広がっていくことを期待しています。

質疑応答では、「ブランドコンセプトとして、どういう世界を作っていきたいのか?」という質問があり、「グリーンアナキズム(=非暴力的な自然回帰主義)といった考え方をイメージしている」との回答があり、「熱い思いをしっかり言語化して訴えていった方がいい」とのアドバイスがありました。

7. 株式会社sion works

7社目は、株式会社sion works 代表取締役・井島志乃さん。

製品は、四次元かばんに搭載するノートPCスタンド「LTスライダー」。PCを取り出さずに操作できるバッグと、それを可能にするスライド機能付きPCスタンドです。

「バッグ上でパソコン操作ができたら便利」という意見が97%というアンケート結果をもとに、パソコン操作が便利に快適にできるリュックを提供することにしました。

まずは高さ、安定感、バッグの置き場所を解決するため、パソコンスタンドをバッグに内蔵しました。スタンドはスライドしながら角度調整ができるようにしたことで、いつもの自然な体勢でタイピングができるようになり、前傾姿勢になって疲れるといった問題を解決しました。まさに「膝上デスク」の完成です。

この「四次元かばん」は、パソコンスタンド「LTスライダー」を内蔵して、2024年春に予約販売を開始します。その後は、海外のクラウドファンディングなどを経て、世界の都市部の対象者へアプローチしていきます。

コメンテーターからは「セキュリティなどが気になる人もいそうだが、本当に使うのか検証しては?」と質問があり、「クラウドファンディングで販売してみて確認したい」との回答がありました。

8. MizLinx

8社目は、株式会社MizLinx代表取締役・野城菜帆さん。製品名は「MizLinx Monitor」。水温などの海洋環境情報と、水中カメラによる映像・画像が取得できる海洋IoTシステムです。

同社は、持続可能な水産業を実現するための海洋モニタリングシステムの開発を行う、海の課題を人と技術の力で解決する会社です。

水産業現場には課題がいくつかあります。例えば、養殖の現場では、餌代の増加や、魚の突然死といった問題が挙げられます。これは数十億の損失につながる大きな問題です。そこで、遠隔で海の様子がわかれば、こういった問題の解決につながるのではないかと考えました。

取得されたデータはWebアプリで表示ができ、いつでもどこでも養殖場を見ることができます。モニタリングにより異変に気づくことができれば、対応することが可能になります。

海外進出も視野に入れています。狙っている市場は世界の養殖市場34兆円で、将来的には漁船業界や他の産業にも進出していきたいと考えています。

質疑応答では、「養殖業者さんの勘どころVSモニタリングシステムではどちらが優っているとかはあるか?」との質問に、「現状は、掛け算。遠隔でモニターを見て、業者さんが養殖場に行って対応が必要かどうかを判断する」との回答がありました。

「耐久性は?」という質問には、「海の環境があるので一概に言えない。メンテナンスを定期的にして、サブスクのように費用をもらっていくことが必要」と回答されました。

総評・交流会

8社のピッチを終え、コメンテーターより総評をいただきました。

「すごく良かったなと思ったのは、ビフォーアフターがあったこと。スタートアップは、進化のスピード感、これが何よりの武器なので、これ以降もアピールしてほしい。また、ものづくりは物を売って買った後に世界が広がります。そこをどう考えているのかをきちんとご説明いただけるといいなと思いました」(足立)

「3月のプレゼンから9ヶ月ですが、しっかり事業を進めているのは素晴らしい。あとは、志の高さというか、言い換えれば気合と根性、それが最終的には事業の是非に分ける部分だと思いますが、その辺りは皆様から感じることができました」(木塚)

「パッションとかビジョンみたいなものもだいぶ言語化してきたと思う。一方で、さらに自分なりの言葉にしていかないと、これから世の中にデリバリーをしていけないと思う。また、ものづくりは量産をベースにしてスケールさせていくという特徴がある。金融面も意識して進められると、世の中がもっと面白くなるんじゃないかなと思います」(渡邊)

発表の後には、参加者との交流会が行われました。発表者が試作品を前にブースに並び、参加者と積極的に意見交換をしました。参加者はマスコミ関係者や投資家、PR担当者など、事業への関心が高く、積極的な質問やアイデアの交換が行われました。